地元の定食屋が最高だった話——500円のランチに人生を感じた午後
先週、なんとなく気が向いて、昔からある地元の定食屋に久しぶりに入ってみた。駅から少し離れた路地にある、看板もちょっと色あせたあの店だ。正直、「まあ適当に腹を満たせればいいか」くらいの気持ちで暖簾をくぐったんだけど、これが予想の何倍もよかった。食べながら思わず「ああ、これだよな」って独り言を言ってしまったくらい。今日はそのときの話を書いておきたいと思う。
その店、外見はかなり地味だった
「食堂まつもと」という名前のその店は、築何十年かわからないビルの一階にある。窓ガラスには手書きの日替わりメニューが貼ってあって、フォントもへったくれもない。ランチタイムに通りかかると、近所のおじさんたちやたまに工事現場の人たちが入っていくのを見かけたことがあった。でも自分は「なんか入りにくいな」と思って、ずっと素通りしてきた。
今回入ってみて気づいたんだけど、入りにくいと思っていたのは完全に自分の思い込みだった。中に入ったら、カウンター5席とテーブルが2つという小さいスペースで、おばちゃんが「いらっしゃい、どうぞ」って自然に声をかけてくれた。その一言がすごく気取ってなくて、なんか安心したんだよね。
メニューが潔すぎて逆に感動した
壁に貼られたメニューを見て、まず驚いたのがそのシンプルさだ。定食が4種類、単品が数品、以上。日替わり定食、焼き魚定食、肉野菜炒め定食、カレーライス。迷う余地がほとんどない。
今の時代、飲食店って「映え」とか「オプション」とか「カスタマイズ」とかで選択肢が多すぎて、逆に疲れることってあると思う。でもここはそういうのが一切ない。「今日の日替わりは何ですか」と聞いたら「鯖の味噌煮です」と即答されたのが、なんかすごく気持ちよかった。迷わなくていい、それだけでもう半分勝ち確みたいな気持ちになった。日替わりを注文することにした。
出てきた定食が、ぜんぶ「ちゃんとしてた」
注文してから5分もしないうちに、トレーに乗った定食が出てきた。鯖の味噌煮、ご飯、味噌汁、小鉢(ひじきの煮物)、漬物。見た目は正直、地味だ。インスタに上げようとは思わない。でも、食べた瞬間にわかった。全部がちゃんとしてるんだ。
鯖は臭みがまったくなくて、味噌のコクと甘みがしっかり染みてた。ご飯は少し固めで、粒がちゃんと立ってる。味噌汁はわかめとお豆腐で、だしの香りがちゃんとする。ひじきの煮物は甘すぎず、箸休めとして絶妙なバランス。どれか一品だけが突出してるんじゃなくて、全体のバランスが整ってる感じ。これがね、すごく難しいことだと思うんだよね。凝った料理を一品作るより、毎日こういうご飯を出し続けるほうがずっと大変だと思う。
しかも値段が580円だった。消費税込みで580円。びっくりした。
おばちゃんとの会話が地味に沁みた
食べ終わってお会計のとき、「おいしかったです」って言ったら、おばちゃんが「そう、よかった。また来てね」って言ってくれた。これだけのことなんだけど、なぜかちょっとじんときた。
最近、飲食店でのやり取りって、どんどんシステム化されてる。タブレットで注文して、セルフレジで払って、店員さんとほとんど会話しない。それはそれで便利だし、否定するつもりはないんだけど、たまにこういう人間同士のやり取りが挟まると、食事の満足度が一段上がる気がする。料理の味だけじゃなくて、その場の空気や人のぬくもりも含めて「ごはん」なんだなって、改めて感じた。
ちなみに後から調べたら、その店、30年以上続いてるらしい。そりゃそうだよなって納得した。
チェーン店では絶対に出会えないものがある
別にチェーン店が悪いとは思ってない。安定してるし、清潔だし、どこに行っても同じ味が食べられるのは正直助かる。でも今回の体験を通じて、個人の定食屋にしか出せない「人の気配」みたいなものが確実に存在すると思った。
誰かが毎朝仕入れに行って、仕込みをして、お客さんの顔を見ながら作ってるご飯。それが580円で食べられる。そういう場所が近所にあることって、実はすごく豊かなことなんじゃないかって気がしてきた。ガイドブックには載らないし、SNSでバズることもないけど、地域の人たちに長年愛されてきた店には、数値化できない価値がある。それに気づくのが遅すぎたかもしれない、とちょっと思った。
それからというもの、週に一回は「食堂まつもと」に通っている。日替わりメニューを楽しみに、気づいたら自分もあの常連のおじさんたちと同じポジションになりつつある。近所の定食屋、まだ行ったことない人にはぜひ一回試してほしい。グルメアプリじゃなくて、目で見て、気になったら入ってみる。そのくらいのノリで十分だと思う。きっとどこかに、自分だけの「最高の定食屋」が潜んでるはずだから。
中学生からテニスを始め、現在テニスコーチもしています。